カツアゲに遭った、その額£10=千
円。大男は必ず返すと言って再会を約束
したが、砂吹はさらに仲間が待っていて
恐喝に遭うと思っている。行くべきか。
作家志望、24歳、ロンドン2ヶ月目
今回は続きものなので、13, 14話がまだの方は先に読むことをオススメします。
第13話「ブライトン旅程で少女と出会う。一瞬で消える虹色の部屋」
第14話「ホームレスが言った。金をくれ。それがダメなら洗剤でもいい」
「ねえ気になるから行ってみようよ」
「いやだね。どうせ人けのない倉庫みたいな所で、身ぐるみ剥がされるに決まってる」
「大丈夫だよ。地図で見る限り、海岸沿いの大きい通りみたいだし。きっと人もいっぱいいるよ」
「いやだ。今日は3人目との顔合わせ。予定は以上だ」
駄々をこねる砂吹を引きずって行ったため、時刻は3時半を回ってしまっていた。
きっともう待っていないだろう。
そもそも、背が高かったとはいえ、この混雑から今日初めて会った人を見つけるのは難しいかもしれない。
そう思わせるほど、多くの観光客で賑わっていた。
砂吹は「人ごみは嫌いだ、もう行くぞ」と着いた瞬間からきかない。
もうちょっとだから、と言って全力で手を引いて連れ回す。
子どもが生まれたら、たかが買い物でも、こうやって何倍も疲れるのだろうな。
それでもいつかは家族は欲しい、子どもは2人、男の子と女の子……
気温が高く、頭がぼうっとして変な妄想を始めたその時だった。
「あ、いた」
見つけた。
そこには人だかりができていて、その中心に、彼はいた。
同じ灰色のトレーナーとキャップ。
まちがいない。
次の瞬間、わたしは息を飲んだ。
洗剤ってまさか……
思わず見とれてしまう。
隣を見ると、砂吹も口を開けている。
あんなに恐く見えたおじさんが、楽しそうに笑っている。
電線のない場所で、青空を背景にすると、シャボン玉ってこんなに色鮮やかに見えるんだ。
虹色とはまさにこのこと。
……虹色?
途端に、目の前ではしゃいでいる一人の女の子が、
ブライトンに来るまでの電車で出会った少女と重なる。
虹色の部屋。
そしてそれは、次の瞬間、確信に変わった。
「これだよ、 虹色の部屋だよ」
思わず砂吹の肩をバンバン叩く。
「すぐ消えちゃうって、言ってたもんなあ」
砂吹がのんびりと答える。
素敵な、パパだね。
心からそう思った。
「ねえ、話しかけに行こうよ」
「まあ待て、焦るな」
すると砂吹は、そっと人差し指をのばした。
「見ろ。何の因果か、あそこで一眼構えてシャッター切ってる奴が、おれ達の3人目の仲間だ」