第95話「イギリス版 おソノさんに教わった知らなかったコト」

 

 

久しぶりに公園に足を運んだ。

暖かくて、天気もいい。

今年損した分の太陽を取り返そうと、公園には人が溢れている。

 

 

家族連れが多く見受けられる中で、一人の女の子が目に止まった。

50mほど先に、ちょこんと立ち尽くしている。

2歳になったばかりくらいか。おぼつかないが、ちょこちょこ、ひよこのように歩いている。

しかし、その子が立っている場所が気になった。公園の出口で、大人の足で三歩外に踏み出すと、すぐ車が走ってる。

 

 

お母さんは、と目で探すと、なんと私のすぐ隣にいた。

そして、5mほど離れた場所に、ひよこちゃんのお姉ちゃんと思われる少女も。この子は、プライマリースクールに入ったばかりくらいだろうか。

危なくないだろうかと、一人ハラハラしてしまう。道路に出てしまわないだろうか。

もしあの子が道路に向かったら。いくらちょこちょこ歩きといっても、間に合うのだろうか。全力ダッシュしても、10秒くらいはかかる。

 

 

お母さんは恰幅が良い。

日本でいえば、肝っ玉母ちゃんという言葉が合うような佇まいだ。

「ねえ、連れてこなくていいの」

お姉ちゃんが妹を指さして訊ねると、母親は「放っといていいよ」と言った。

 

 

え、いいの?  と心配になる。

お姉ちゃんも、不安そうに妹のことを見つめている。

「わたし、やっぱり連れてくる!」

そう言ってお姉ちゃんが走り出した時、母親は厳しい口調で言った。「ダメ!放っておきなさい」

 

 

「なんで」とお姉ちゃんは悲しそうにした。

私も同じ気持ちだった。

「追うと逃げるから。かえって危ないでしょ。放っとけば、帰ってくるから」

少しの間、お姉ちゃんとともに見守っていた。

 

 

ひよこちゃんは、しばらく一人で遊んでいた。

そしてふと、傍にママもお姉ちゃんもいないことに気がつく。

すると、メソメソしながら、愛らしいちょこちょこ歩きでこちらに必死に駆けてきた。

お母さんは「ほらね」と言った。笑い方が、魔女の宅急便のおソノさんに似ていた。

 

ほんとだー、とお姉ちゃんは頑張ってたどり着いた妹を抱きしめた。

 

 

帰り道。なんだか私は気分が良い。

外国でちょっと暮らしたくらいで気が大きくなってたけど、とんだ勘違い。

まだまだ知らない世界が、いっぱいある。

そんな風に思った。(つまり結婚したい)

 

 

 

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