第92話 18歳まで一緒にお風呂に入ってた子に訊く「理想のお父さん像」

 

 

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カメラマン、32歳、イギリス10ヶ月目

 

 

「今の咳? まさかくしゃみ?」

隣を歩く後輩の女の子に訊ねたら

「そんなことないですよ〜」と謎の照れを見せた。

なるほど、くしゃみか咳か分からないのは褒められるべき事なんだ。

 

 

人当たりが良くて、容姿端麗、スタイルも良い。自分が美人であること分かっていて、なおかつそういう嫌味がない。

そんな、ほぼ完璧と言って後輩に、彼氏がずっとできない。

その驚愕の理由を今、知った。

「お父さんが格好良過ぎて、周りの男がみな霞む」

 

 

18歳まで一緒にお風呂に入っていた

 

「もう大人なんだから1人で入りなさい」

そう言ってきたのはお父さんの方だったという。

 

なんだろう、訊きたいことがたくさんあるはずなのに、何を訊いてもセクハラになりそうだ。

ただのファザコンなのでは、と思ったが、僕はそこに、娘に嫌われないコツがありそうだと思い、

将来子どもが生まれた時のために、いろいろ訊いてみたいと思った。

 

娘より綺麗好きなお父さん

 

「なんというか、しっかりしてるんですよね」そう話す後輩。

「潔癖まではいかないですけど、掃除が好きで。運動もしてるから、お腹も出てない。

公開授業でも『 −− ちゃんのパパかっこいい〜』ってよく言われました。

だから、『お風呂のお湯変えて!』みたいなのはフィクションの世界だけだと思ってましたけど。本当にそんなことあるんですかね」

 

 

なるほど、清潔感がいかに大事かが分かる。

きっとオナラもゲップも、でっかいくしゃみもしなければ、パンツ一丁でお風呂から出てきたりしないのだろう。

もしくはパンツ一丁でも様になる肉体美なのか、どちらかだ。

 

 

娘の変化によく気が付く

 

たとえばですけど、と言って後輩は続けた。

 

「イヤなことがあった時に、わたしはあんまり触れてほしくないんですよ。

ちょっと、ひとまず自分で整理したいっていうか。

で、それを分かってるのか、普段は結構話すくせに、

そういう時は何も言ってこなくて、ご飯の時も無口で」

 

へえ、と思った。

 

 

「次の日とかに、『元気ないけど?』とか言ってくるんですよ。わたしも自分で答え出せたか、一晩寝て忘れてたかで、『聞いてよ、実はさー』とか言って、自然と喋らされてるんですよ」

喋らされてる、とはおもしろい、と僕は思った。

「あとは、髪切ったりしても、やっぱすぐ気が付きますね」

 

髪、いいね、なんて言って褒めたりするのだろうか。

ただ、いちいち口を出してスキンシップを取ろうとするのは逆効果な場合もある。

さじ加減が、難しい。

 

 

わたしのおでこって、綺麗じゃないですか?

 

 

そう言って後輩は前髪を押し上げて、大きな瞳でこちらを見てくる。

女性のおでこなんて普段は隠れていて見えないし、正直おでこを語れるほどフェチでもない。

「うん、まあ、丸くてツルツルしてて、いいね、いいよ」

絶対に褒め方まちがえたけど、彼女はなぜか満足げだ。

 

 

「わたし、ずっとポニーテールだったんですよ」

へえ、と相槌を打つ。

 

 

「小さな時からそうだったから、特に気にもならなかったんですけど。でもそれ、お父さんが言い始めた事らしいんですよ。前髪があると、髪がささって、菌が入るからって」

だからこの年までニキビとかお肌の悩み何もなくて、と話す。

たしかに、赤ちゃんのような弾力のありそうなほっぺだった。

「その時からなんか、お父さんの言ってる事って、全部正しいのかなって思えてきて」

 

 

「そのお父さんが『おまえは彼氏なんてまだ早い』とか言ってるの?」

「まさか! 早く彼氏を家に連れてこい、とか言ってますよ」

普通は逆だな、と僕は笑う。

 

 

お母さんの偉大さもしかり

 

他にはないの? と無茶な質問を続けた。

今日はなにか、重要な答えに辿り着けそうな気がしていた。

 

 

「そういえば、お母さんがお父さんの悪口言ってるとこって、見たことないかも」

ほー、なるほど。

『もーこれだからパパはダメねー』みたいなのを、この子は聞かされずに育ったのだろう。

 

 

立ててくれる奥さんは、たしかにありがたい。

けど、そうじゃなくても

尊敬される夫、父でいることが重要なのかもしれない。

妻と娘という、二人の女性の前で。

 

 

遺伝子的に見ても、

娘にとっては初めて接する男が父親であり、

どう接したらいいのかが分からなくて混乱してる、という時期が思春期らしい。

 

 

いつかもし子どもが生まれたら、この世で二番目に好きだと話そう。

そんな一節をふと思い出した。

きっと後輩は、娘ではなく、一人の女性としてずっと扱われてきたんだ。

そこが、キーのような気がする。

 

(歌詞がすぐにピンと来た人は同世代)

 

 

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