第49話「むかし美術の教科書で見ていたマグリッドの空のまんま」

 

日本の空のが青いなと思う。ロンドンは
水色。昔、美術の教科書で見た絵画の空
はなんてお洒落なブルーを描くのだろう
と思ってたけど、結構見たまんまだ。

 

 

 

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作家志望、24歳、イギリス7ヶ月目

 

 

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「おい、朝から食パンなんて齧ってる場合か。プロットは進んでるのか」

 

数年前、久米島で撮った日本の写真を見返していた。空が青いと思って撮ったのだけど、古本の黄ばみのやばみが深い。そして、食パンとは朝食に頂くものではなかったかと思う。

 

しかしわたしは言い返さない。

 

何故ならプロットは進んでいなかったからだ。

 

 

 

 

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初対面で、彼氏を紹介してほしいと言ったあの男の子。

 

彼から連絡をもらえたのはよかったのだが、間が悪いことに

今は仕事で日本にいるらしい。

 

まだ若いのに、飛び回って仕事をするなんてすごい。

 

しかしあては外れてしまった。同性愛者の彼から、何かアイデアをもらうはずだったのに。

 

 

 

 

「それで、そいつは何の仕事してるんだ」

 

「テレビ局関係って言ってたけど、詳しくは分からない」

 

「案外、ディレクターとかで使いっ走りにされてる奴の一人だったりしてな。ほら、よくあるだろ。海外の日本人にインタビューしたり、ヘンピなところで原住民に密着して、面白いの撮れるまで帰って来れないやつ」

 

いつ月曜から夜更かしに出会ってもいいように、おれは常に個人的ニュースを用意している、と自慢げな砂吹。イギリスにいる以上、出会う可能性は絶対にない。

 

 

 

 

たしかに、最近は芸能人をゲストとして使わない、単身ディレクターによる番組構成が人気のようだ。

 

ゲストがいる場合は、スケジュールや撮れ高、後進国でのきれいなホテルの確保など、何かと気を遣うことが多い。

 

その点、ディレクターだけだと、気の済むまで取材できる上に、後から編集しやすい、予算がかからないなどの利点があるのだとか。

 

 

 

 

「でもああいうのって、ちょっと個性的なディレクターが多くない? いたって普通の子だったと思うけど」

 

「いたって普通の、同性愛者だろ」

 

砂吹が言うと皮肉に聞こえるが、たしかにロンドンに同性愛者なんてごまんといる。

 

「ああ、話が聞きたかったー」わたしは食べ終えたお皿をどけて、テーブルに突っ伏すように伸びをする。

 

 

 

 

「行くか出張」

 

まさか、と思って砂吹の顔を見る。

 

「行きたいか日本と訊いているんだ」

 

「いいの?」

 

 

 

 

「約束しろ。彼への取材を成功させて必ず何かしらショートフィルムに生かせ。

帰りまでにプロット候補をたくさん作れ。

基本的にはおれの荷物持ちだ

あとは」

 

まだあるのか、と返事を待つ。

 

「ハッピーターンの粉200%のやつを持てるだけ持って帰ってくる」

 

 

 

 

さては、わたしの作った卵ご飯を食べてから、急に日本食や日本のお菓子が恋しくなったな、とにやりとする。

 

とにかく、半年ちょっとぶりに日本に帰れることになった。

 

でも、遊びじゃない、仕事のためだ、と背筋を伸ばす。

 

そして、わたしはペンをとって、食べたいものを片っ端から書き始める。

 

 

 

 

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