日本の空のが青いなと思う。ロンドンは
水色。昔、美術の教科書で見た絵画の空
はなんてお洒落なブルーを描くのだろう
と思ってたけど、結構見たまんまだ。
作家志望、24歳、イギリス7ヶ月目
「おい、朝から食パンなんて齧ってる場合か。プロットは進んでるのか」
数年前、久米島で撮った日本の写真を見返していた。空が青いと思って撮ったのだけど、古本の黄ばみのやばみが深い。そして、食パンとは朝食に頂くものではなかったかと思う。
しかしわたしは言い返さない。
何故ならプロットは進んでいなかったからだ。
初対面で、彼氏を紹介してほしいと言ったあの男の子。
彼から連絡をもらえたのはよかったのだが、間が悪いことに
今は仕事で日本にいるらしい。
まだ若いのに、飛び回って仕事をするなんてすごい。
しかしあては外れてしまった。同性愛者の彼から、何かアイデアをもらうはずだったのに。
「それで、そいつは何の仕事してるんだ」
「テレビ局関係って言ってたけど、詳しくは分からない」
「案外、ディレクターとかで使いっ走りにされてる奴の一人だったりしてな。ほら、よくあるだろ。海外の日本人にインタビューしたり、ヘンピなところで原住民に密着して、面白いの撮れるまで帰って来れないやつ」
いつ月曜から夜更かしに出会ってもいいように、おれは常に個人的ニュースを用意している、と自慢げな砂吹。イギリスにいる以上、出会う可能性は絶対にない。
たしかに、最近は芸能人をゲストとして使わない、単身ディレクターによる番組構成が人気のようだ。
ゲストがいる場合は、スケジュールや撮れ高、後進国でのきれいなホテルの確保など、何かと気を遣うことが多い。
その点、ディレクターだけだと、気の済むまで取材できる上に、後から編集しやすい、予算がかからないなどの利点があるのだとか。
「でもああいうのって、ちょっと個性的なディレクターが多くない? いたって普通の子だったと思うけど」
「いたって普通の、同性愛者だろ」
砂吹が言うと皮肉に聞こえるが、たしかにロンドンに同性愛者なんてごまんといる。
「ああ、話が聞きたかったー」わたしは食べ終えたお皿をどけて、テーブルに突っ伏すように伸びをする。
「行くか出張」
まさか、と思って砂吹の顔を見る。
「行きたいか日本と訊いているんだ」
「いいの?」
「約束しろ。彼への取材を成功させて必ず何かしらショートフィルムに生かせ。
帰りまでにプロット候補をたくさん作れ。
基本的にはおれの荷物持ちだ
あとは」
まだあるのか、と返事を待つ。
「ハッピーターンの粉200%のやつを持てるだけ持って帰ってくる」
さては、わたしの作った卵ご飯を食べてから、急に日本食や日本のお菓子が恋しくなったな、とにやりとする。
とにかく、半年ちょっとぶりに日本に帰れることになった。
でも、遊びじゃない、仕事のためだ、と背筋を伸ばす。
そして、わたしはペンをとって、食べたいものを片っ端から書き始める。
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