ヘアメイク、28歳、イギリス9ヶ月目
ルックブックの撮影で一緒になった、イギリス人のメイクの女の子。
笑顔がくしゃっとなる、可愛いくて人懐っこい子だった。
彼女は言った。
「あなたはいい人ね。でも、日本人はこわいわ」
double face、と言った。
私はその言葉を知らなかったけれど、意味は直感的にわかった。
裏表がある、ということだろう。
日本に滞在し、ファッションの撮影の経験もある彼女。
「わかってる、欧米人のクライアントの方がわがままよね。
あらかじめもらったムードボードを見て、せっかく言われた通りに準備をして行ったら、やっぱり気が変わった、こっちにしていい? と言ってくる。
これはちょっとイメージとちがうな、変えてほしいわ、と簡単に言ってくる。
それでも、気に入ったらすごいほめてくれるでしょ。
Amazing! Excellent!! Stunning!!!
たとえ、一発目がうまくできなかったとしても、最終的に彼らの気に入ったものができれば、また呼んでくれる。
一方の日本人は、礼儀正しい。その場では文句を言わないでしょ。
なんで? 嫌われるのがこわいから? 場の雰囲気が悪くなるのがいやだから?
そして彼らは、どうかしら?という私の問いに、大丈夫です、と謎の言葉を口にする。
そして帰り際、お互い笑顔で仕事を終えたと思ったのに、仕事は来なくなる」
これで良いのか悪いのか、判断できないというのは、こわい。
その日、ずっとくるくる笑っていた彼女が初めて真剣な顔をした。
私には何が言えるだろう。
ごめんね、と言ったら、なぜあなたが謝るのよ、あなたもダブルフェイスなの? と言って彼女は笑った。
なんか、ヅケヅケくるのに、安心するのはなんでだろう。
だって、日本人だったら、この話を私にすること自体、タブーと考えるところなのに。
「みんな、言いたいことは言えばいいのにね」
無垢な少女の、単なる疑問。
彼女の嫌味のない人柄がそうさせる。
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