第80話「外国人が、日本人をダブルフェイスと呼ぶ理由」

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ヘアメイク、28歳、イギリス9ヶ月目

 

 

ルックブックの撮影で一緒になった、イギリス人のメイクの女の子。

笑顔がくしゃっとなる、可愛いくて人懐っこい子だった。

彼女は言った。

「あなたはいい人ね。でも、日本人はこわいわ」

 

 

double face、と言った。

私はその言葉を知らなかったけれど、意味は直感的にわかった。

裏表がある、ということだろう。

日本に滞在し、ファッションの撮影の経験もある彼女。

 

 

「わかってる、欧米人のクライアントの方がわがままよね。

あらかじめもらったムードボードを見て、せっかく言われた通りに準備をして行ったら、やっぱり気が変わった、こっちにしていい? と言ってくる。

これはちょっとイメージとちがうな、変えてほしいわ、と簡単に言ってくる。

 

 

それでも、気に入ったらすごいほめてくれるでしょ。

Amazing! Excellent!! Stunning!!!

たとえ、一発目がうまくできなかったとしても、最終的に彼らの気に入ったものができれば、また呼んでくれる。

 

 

一方の日本人は、礼儀正しい。その場では文句を言わないでしょ。

なんで? 嫌われるのがこわいから? 場の雰囲気が悪くなるのがいやだから?

そして彼らは、どうかしら?という私の問いに、大丈夫です、と謎の言葉を口にする。

そして帰り際、お互い笑顔で仕事を終えたと思ったのに、仕事は来なくなる」

 

 

これで良いのか悪いのか、判断できないというのは、こわい。

その日、ずっとくるくる笑っていた彼女が初めて真剣な顔をした。

私には何が言えるだろう。

ごめんね、と言ったら、なぜあなたが謝るのよ、あなたもダブルフェイスなの? と言って彼女は笑った。

 

 

なんか、ヅケヅケくるのに、安心するのはなんでだろう。

だって、日本人だったら、この話を私にすること自体、タブーと考えるところなのに。

 

 

「みんな、言いたいことは言えばいいのにね」

無垢な少女の、単なる疑問。

彼女の嫌味のない人柄がそうさせる。

 

 

 

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