第53話「同性愛者とロリポップおじさん」

 

ロンドンのカフェで出会った、彼氏を探
しているという綺麗な男の子。彼は日本
のテレビ局で働いているらしい。一時帰
国したときに会えないかとDMしてみた。

 

 

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作家志望、24歳、イギリス7ヶ月目

 

 

日本に帰ってきた。

砂吹は読みたい本があるというので、ほーと思ったのに

買ってきたのは、国民的、いや世界的人気マンガだった。

しかもまだ割と最初の方。とても今さら感。

 

 

 

ロンドンのカフェで話しかけられた男の子。

その子が時間をとってくれると言うので、東京でお茶することになった。

初対面の様子はこちらから

第47話「ティセットたった£1.25!! ソイミルクコーヒーとチョコがけマドレーヌ」

 

 

ADになりたいらしく、その見習いをしているのだという。

「AD見習い、ってAADじゃねえかよ」とか

「アシスタントディレクター、代理、補佐、見習い、心得」とか

今日の砂吹は何かにつけて噛み付いてくる。

 

 

砂吹が失礼なのは今に始まったことじゃない。

だけど今回連れてきたのは本当に失敗だったと思った。

忙しい中、せっかく時間を作ってくれたのに、砂吹はずっとマンガを読んでいる。

きっと気を悪くしてるだろうと、ヒヤヒヤしながら砂吹をたしなめる。

 

 

「あんた、なんなの、その態度」

「だって話がおもしろくないんだもん」ワンピースに比べると、とマンガから目を離すこともなく言う。

ワンピースよりおもしろい話なんかそうそうないんだよ、と怒鳴りそうになり、ちがうちがうとなる。

「砂吹にとって、おもしろい話って」

それは、と言ってこちらを見た。

「それは、当たり障りのある話だろ」

「あんたは普段から当たり障りが有りすぎ」

「オモシロキ コトモナキ世ヲ オモシロク」

会話にならない。

 

 

「おーけーいいよ。当たり障りのある話をしましょ」

そこで綺麗な顔のADくんは、笑顔のまま、飲んでるコーヒーカップを置いて足を組んだ。

「おもしろいんだろうな」

あんたは何様か。

 

 

ちょっと気にしないでください、無理しないでください、とフォローする間も無く、彼の話は始まってしまった。

 

 

「小学生の頃、僕はロリポップおじさんと出会ったんだ」

そして、幼かった僕の人生を少なからず変えた、と綺麗な顔のADくんが言った。

ロリポップってなんだ、と砂吹が聞くので、ペロペロキャンディーかな、とわたしは首をかしげる。

砂吹はマンガを閉じて、一目をはばからず「なんだその卑猥な響きは!」と叫んだ。

 

 

 

 

ーーー

 

友達は少なからずいた。(と思う)

勉強もそこそこできていて。(多分だけど)

運動も1等賞はとれないけど、球技はできたし、泳げたからバカにもされない。(もしかしたら陰口くらい言われていたかもだけど)

いじめられることも、いじめることもなかった。(これは本当)

 

 

何の悩みもなかったとけど、楽しくて仕方ない、という小学生でもなかった。

クラスには、生きてて楽しそうだなと思う人が他にいたからだ。

集合写真の時に一番前で寝そべるような人がそうだ。

自分が嫌われることなんて、夢にも思わない。みんなに愛されてる自信がある人だけが、あそこで寝そべることができる。

 

 

好奇心のあまりない僕が、一つだけ疑問に思ってたこと。

それは、毎日同じことの繰り返しが、楽しいか退屈か、ということだ。

そして、その疑問を解決してくれそうな、興味深い人が身近にいた。

いつも登校路の横断歩道のところにいて、旗を持って、ニコニコしているおじさん。

 

 

「日本だと、緑のおばさんというらしいね」

僕がそう言うと、二人は、ああ、と言った。なぜか砂吹という男の子の方は肩を落としたように見えた。

「それを、Lolipop lady  / manと言うんだ」これはイギリス英語で、アメリカでは言わないらしい。

「ロリポップ、レディだと……? 」となぜかその言葉を噛み締めてる砂吹。Sakiちゃんがなぜか、それ以上言わせまいと口を塞いだ。

 

 

「うちの学校は緑のおじさんだったけどね。僕は訊いてみたんだ。

おじさんは、なんでそんなシンプルな日々を送ってるの? 趣味なの? 楽しいの?」

 

おじさんは「楽しいよ、子どもの笑顔を毎日見れて」と言った。

「これだって、消防士と同じ命がけの仕事さ。

トラックがつっこんできようもんなら、この身を捨ててでも、子どもを助けたいと思ってるからね」

当時の僕にとっては、それが大人の模範解答のように感じて、なんだかおもしろくなかった。

 

 

やりがいがあれば、シンプルで同じ毎日の方が幸せなのか……?

その時、おじさんはこう続けた。

「それでも、できることなら、当たり障りのある人生を」

 

 

「もちろん、いつも波風立たせようと生きてるわけじゃない。僕も平和が好きだから。

ただ、自分が思ったことなのに、平和を愛しているからといって言わないのが日本人だと思う。

言わない理由、やらない理由はたくさんある。幸か不幸か」

 

 

そう言うと、ちょっと変な間が流れた気がした。

「あ、ごめん、僕は日本人の両親から生まれたけど、ほとんどイギリスで育ったんだ。だからといって別に日本人を悪く言うつもりもなくて」

「そんな前置きをわざわざするなんて、十分日本人らしいから安心しろ」

「君の場合は波風立てるのとはちがって、ただ攻撃的なだけだ」砂吹に言い返したら、Sakiちゃんはもっと言ってやってくださいと同調した。

 

 

「波風を立てる生き方」の反対語は「事なかれ主義」な気がする。

別に過剰反応して毎回、嵐を起こせと言ってるわけじゃない。

波打ち際、そよ風くらい。

説明が難しいけれど、あのおじさんに、そんな心地いいものを感じた。

 

 

「まあ、毎日同じもん食ってないで、たまには知らないレストランに行こうってことだろう」

「ちょっと、せっかくの良い話を陳腐なたとえでまとめないでよね」

じゃあ、といって砂吹はさっきまで読んでいたマンガをパラパラ見返している。

「え、嫌な予感。砂吹のじゃあ、は全然じゃあじゃないんだから。何の繋がりもない」

あるページを開いてこちらに見せる。

 

 

「バナナワニに会いに行こう!アフリカかマダガスタルあたりにはいるんだろ」

おい心得、お詫びとしておまえも連れてってやる、と言われた。

心得、とは僕のことなのか。

そして、バナナワニとは。

 

 

 

 

 

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