第51話「10年前のフィルムは現像できるのか – 洒落たタイムカプセル」

 

一時帰国。いざ帰るとなると、やり
たいことも結構ある。実家に顔を出し
て、僕はむかし使っていたフィルムカ
メラを押し入れから引っぱり出した。

 

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カメラマン、33歳、イギリス7ヶ月目

 

 

 

先日、珍しく朝食で4人全員が揃った。

 

「日本に帰りたい人」と砂吹が突然手をあげて、挙手を求めるようにした。

 

「紅茶飲む人いる?」くらいの軽いノリではあったが、思わず手をあげたのは、ミムラ以外の3人だった。

 

ヘアメイクとして活動しているミムラは、今は少しでも多く撮影に顔を出したいからという理由で、一人残ることになった。

 

 

 

 

旅費は全部出すから、滞在費と向こうでの金は各自で工面してくれ、と砂吹が言った。

 

10日間の日本滞在。

 

 

 

 

ロンドンは厳しい寒さが続くが、日本はまだ秋。

今週は20度をこえる日もあるらしい。

一時、避難したい。

日本での時間も有効に使えるかもしれない。

 

 

ーーー

 

 

遠いと思っていた、日本とイギリス。

 

思い立ってから2日後には、僕らは成田に着いていた。

 

到着した日は実家に顔を出そうと思っていた。

 

家には最初、父だけがいた。

 

 

 

 

自分の部屋の押し入れに頭を入れ、さっそく引っぱり出したのは、フィルムカメラ。

 

遠い昔、空の写真家HABUさんに影響されて買った、NIKON F3

 

HABUさんの個展に行って、たまたま在廊していてお会いできて。

F3を使っていると聞いて、中古で手に入れたのが、たしか20歳の時。

 

あの時は、露出もISOも知らなかった。

 

 

 

 

見つけ出したF3には、あろうことか、なんとフィルムが中に入ったままだった。

 

もう10年以上前のフィルムだ。

 

父が新聞を読んでいたので、僕はイギリスで買って来た紅茶を淹れる。

 

「10年前のフィルムが出てきたんだけど、現像できると思う?」

父はこっちを見ずに、無理じゃないの、と言った。

 

 

 

 

こういう時の父の言葉はいつも根拠がない。

 

ただ、だいたいは合ってることが多い。

 

ネットで調べると、カラーフィルムはだいたい2年くらいが使用期限だと書いてある。

 

そして、中に入っていると思しきSolarisというフィルムは、2013年に生産終了になっていたこともわかった。

 

 

 

 

父の話が根拠のないのないものだと分かっていても

 

僕は自分の都合で、聞き入れてしまう時がよくあった。

 

たとえば、フィルムの現像が面倒だな、と感じている今も、

 

どうせ写ってないのなら、お金も時間もかけるだけ無駄だな、と考えている。

 

 

 

 

取り出したフィルムを、一度はゴミ箱に入れた。

 

しかし、パソコン上のデータをゴミ箱に移すのとは、まったく違った重みがそこにはたしかにあって、

 

しばしの睨めっこの後、僕の手はそのフィルムを拾っていた。

 

何を撮ったかも覚えていないフィルムなんて、素敵じゃないか。

そんな思い直りの良さよ。生産終了しているフィルム、というのも貴重に思えてくる。

 

 

 

 

イギリスに戻る前に受どうしても受け取りたかったので

その日のうちに現像に出しに行った。

撮った覚えのあるような、ないような。

不思議な感覚だった。

 

 

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自由すぎる構図。

たしかに僕の撮ったものだ。

 

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漂う昭和感。

 

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誰。

 

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やっぱり空の写真が多かった。

空撮っとけばいいと思ってたし、なんなら今でも思ってる。

 

粒子が荒いのは、フィルムの劣化というより、ISO800を日中ガンガン撮っていたせいな気がする。

 

 

 

 

機材何使ってるんですか? とカメラマンに訊くと

 

みんな揃って、どんな写真が撮りたいの、と言う。

 

撮れた写真が好きか嫌いかは分かるけど

 

どんな写真を撮りたいか、と言われると、ずっと分からなかった。

 

 

 

 

フィルム。

フィルム風に加工できるデジタル。

ゼロから写真を作れる。

いっそCGでいいじゃないか。

 

 

 

 

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写真が何だか分からなくて社カメをやめて。

イギリスに行って、とりあえず分かったことがある。

 

そこにどんなストーリーがあるのか。

それが今は、どんな写真を撮りたいかに繋がっている。

 

気がするたぶん。

 

とにかく今は、日本でしか撮れない風景を撮ろう。

 

 

 

 

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