第35話「バルト三国お土産一覧。4人目、最後のメンバーが加入」

 

1億当てた男、砂吹ののロンドンで
のプロジェクトがいよいよ動き始める
。3人がバルト三国から無事帰国する
と美女が和食を作って待っていた!

 

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作家志望、24歳、イギリスヶ月目

 

 

 

 

ロンドンの家に帰ると、玄関のドアを開けた瞬間に出汁の匂いがした。

 

懐かしい和食の香り。思わずお腹が鳴りそうになる。

 

キッチンに入ると、長い黒髪を背中まで伸ばした女性が鍋に向かっていた。

 

「牛すじ大根、お好きですか」

 

 

 

 

初対面の挨拶にはふさわしくないその言葉だが、好きです、大好きですと即答している。

 

彼女が4人目にして最後のメンバー、ミムラさんだ、と砂吹が紹介した。

 

初めましてと頭を下げる所作からは育ちの良さを感じる。隙のないお化粧をしていて、ナチュラルメイクという名のすっぴんに近いわたしは、恥ずかしい気持ちになる。

 

荷物を部屋に置いて手を洗った2分後にリビングに集合したわたしたちは、柔らかな牛すじや味の染みた大根や卵を頬張る。「それ蟹じゃねえから」と砂吹が沈黙を破るまで、無言で食べ続けていた。

 

 

 

 

「僕は広末と言います。元は会社員カメラマンで、ここではフリーでやっていくつもりです」

 

思い出したように、順に挨拶をしていく。

 

「三井咲です。花が咲く、サキです。作家志望で、今は短編を書いています」

 

「そしておれ砂吹が、最年少20歳にしてこいつらのスポンサーだ」アズユーノー、と最近覚えた英語を得意げに使っている。

 

 

 

 

「初めまして、味村千寛(みむら ちひろ)です。日本では、美容部員をしていました」

 

髪を耳にかける姿も堂に入っている。聞けば誰でも知っている大手ブランドだ。

 

「あんたはまた顔で選んで」

 

「バカ言うな。顔で選んでいたら、おまえはここにはいない」グーで小突こうとすると、巧みに避けられた。

 

 

 

 

 

「そうだ、お土産があるんです。バルト三国の」

そういって机の上に所狭しと広げる。まずは、前回の続きから。

 

 

 

 

 

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砂吹が買った小銭入れ。

 

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砂吹と広末くんが買った蝶ネクタイ。

 

 

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日本の双子の親友、マキとミキへ。お揃いのピアス。

 

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砂吹が勝手に買ってた謎のボールペン。

小学生みたい。

 

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ばらまき土産用の美味しいチョコ。スーパーで安く買える。

 

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そして思わぬ伏兵がこれ。

 

なんとなく手に取っただけなのに、帰ってから食べてみると、美味しいこと美味しいこと。

 

しかもロンドンで買うと1個6ポンドもすることが分かった。

 

たしか2、3ユーロで買った気がするんだよなあ。次に出会ったら20個くらい買いたい。

 

 

 

 

食後に紅茶を飲みながら、甘いものは別腹とチョコを食べて至福の時。

砂吹が珍しく真面目な顔をしていた。

 

 

「メンバーはそろった。

 

1億当選男、おれこと砂吹。

元・社カメ、広末くん。

作家志望、脚本担当の三井。

ヘアメイク、味村。

 

 

個人の目標もあるだろう。

大いにやってくれ。だが時間は有限だ。

 

このメンバーでひとつやり遂げたいことがある」

 

 

砂吹は、いつもの真っ白で皺ひとつないシャツに、正装のためだと言って買った蝶ネクタイを何故かしていた。緊張したように、咳払いをひとつする。

 

 

 

 

「この4人で、短編映画をつくる。

おれたちは、ロッテルダム映画祭の出品を目指す」

 

 

 

 

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