1億当てた男、砂吹ののロンドンで
のプロジェクトがいよいよ動き始める
。3人がバルト三国から無事帰国する
と美女が和食を作って待っていた!
作家志望、24歳、イギリスヶ月目
ロンドンの家に帰ると、玄関のドアを開けた瞬間に出汁の匂いがした。
懐かしい和食の香り。思わずお腹が鳴りそうになる。
キッチンに入ると、長い黒髪を背中まで伸ばした女性が鍋に向かっていた。
「牛すじ大根、お好きですか」
初対面の挨拶にはふさわしくないその言葉だが、好きです、大好きですと即答している。
彼女が4人目にして最後のメンバー、ミムラさんだ、と砂吹が紹介した。
初めましてと頭を下げる所作からは育ちの良さを感じる。隙のないお化粧をしていて、ナチュラルメイクという名のすっぴんに近いわたしは、恥ずかしい気持ちになる。
荷物を部屋に置いて手を洗った2分後にリビングに集合したわたしたちは、柔らかな牛すじや味の染みた大根や卵を頬張る。「それ蟹じゃねえから」と砂吹が沈黙を破るまで、無言で食べ続けていた。
「僕は広末と言います。元は会社員カメラマンで、ここではフリーでやっていくつもりです」
思い出したように、順に挨拶をしていく。
「三井咲です。花が咲く、サキです。作家志望で、今は短編を書いています」
「そしておれ砂吹が、最年少20歳にしてこいつらのスポンサーだ」アズユーノー、と最近覚えた英語を得意げに使っている。
「初めまして、味村千寛(みむら ちひろ)です。日本では、美容部員をしていました」
髪を耳にかける姿も堂に入っている。聞けば誰でも知っている大手ブランドだ。
「あんたはまた顔で選んで」
「バカ言うな。顔で選んでいたら、おまえはここにはいない」グーで小突こうとすると、巧みに避けられた。
「そうだ、お土産があるんです。バルト三国の」
そういって机の上に所狭しと広げる。まずは、前回の続きから。
砂吹が買った小銭入れ。
砂吹と広末くんが買った蝶ネクタイ。
日本の双子の親友、マキとミキへ。お揃いのピアス。
砂吹が勝手に買ってた謎のボールペン。
小学生みたい。
ばらまき土産用の美味しいチョコ。スーパーで安く買える。
そして思わぬ伏兵がこれ。
なんとなく手に取っただけなのに、帰ってから食べてみると、美味しいこと美味しいこと。
しかもロンドンで買うと1個6ポンドもすることが分かった。
たしか2、3ユーロで買った気がするんだよなあ。次に出会ったら20個くらい買いたい。
食後に紅茶を飲みながら、甘いものは別腹とチョコを食べて至福の時。
砂吹が珍しく真面目な顔をしていた。
「メンバーはそろった。
1億当選男、おれこと砂吹。
元・社カメ、広末くん。
作家志望、脚本担当の三井。
ヘアメイク、味村。
個人の目標もあるだろう。
大いにやってくれ。だが時間は有限だ。
このメンバーでひとつやり遂げたいことがある」
砂吹は、いつもの真っ白で皺ひとつないシャツに、正装のためだと言って買った蝶ネクタイを何故かしていた。緊張したように、咳払いをひとつする。
「この4人で、短編映画をつくる。
おれたちは、ロッテルダム映画祭の出品を目指す」
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