第33話「エストニア観光、必ずのぼるべきタワーと伝えられる逸話」

何かと高いところにのぼりたがる観
光客。4千円も出してアホらしいと未
だにロンドンアイにも乗っていないお
れ達だが、これはのぼるべきタワー。

 

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宝くじが当たった無職、20歳、イギリス3ヶ月目

 

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ラトビア、リガを後にして、バルト三国最後の国、エストニア、タリン(Tallinn)へと向かう。

 

リトアニアで乗ったのと同じバス、快適なLux Expressで。

第28話「ラトビアへ!! バルト三国の移動、圧倒的にバスがおすすめ」

 

 

 

「なんか、リトアニア、ラトビア、エストニアと下から順に上がってきたけど、上にいくにつれて、テーマパークのようになっていくね」

三井がそう言ってから、良い意味でだよ、と謎の付け足しをする。

 

「ねずみの着ぐるみが姿を現しそうだということか」

 

「今回は何事もないといいですね」

 

広末くんの何事も、というのは、美女がベッドに潜り込んでこないといいな、ということだ。

 

 

 

 

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「昔から、天気と人には恵まれるんですよね」

 

「それって最高な人生だと思うよ」

 

広末くんの言葉に、三井が乗り出すように相槌を打つ。

 

こいつは相槌を打つための専用ハンマーをその手に持っているかのように、同調が得意だ。それがいつでも本心でまっすぐだから、少し羨ましいと思うこともある。少しだが。

 

 

 

 

広末くんの何気ない一言だったが、なんだかとても大切なことのような気がした。

 

たしかに彼が来てから、旅行前の雨の多いはずのロンドンでも、ここのところは天気が安定していた。

 

ただ、彼が晴れ男であるのとはまた別の話で。

 

たとえば「晴れのち曇り」の日を、良い天気だったと思えるか、イマイチだったと思うか、というちがいのようなものだ。最後は曇って最悪だったと口にするか、少しでも晴れ間があって良かったと思えるか。

 

 

 

 

魔法の言葉だなんていったら陳腐だが、口癖のように言っていれば自然とそっちの方へ連れていってくれる言葉や、自然と人々を幸せにする言葉が、確実にある。

 

事実いま、広末くんが「人に恵まれる」という言葉を聞いたおれと三井は、嫌な気がしない。

 

その恵まれた人の中に、入ってるんだ、自分たちは。

そう思って、嬉しくない人なんかいない。

 

問題は広末くんがそこまで計算して言葉を選んでいそうだということ。そこが、おれが彼をサイコパスだと思っている所以だ。

 

 

 

 

それにしても、本当に絵本の中みたいな世界だ。

 

 

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広末くんの写真は、もっと綺麗な場所が他にあるのに「そこ?」というところを撮ったり、本物の木よりも影がメインだったりする。

 

ちょっと立ち止まって考えさせられる何かが隠れていて、そういう意味では絵画のようでもある。

 

 

 

 

「わたし、どうしても行きたいところがあるの。まずはそこに行こう!」

三井が返事も聞かずに経路を検索し始める。

 

「おまえは好きな海老フライを最初に食べちゃうタイプだろ」

 

「なんで? 最初に一番見たいところに行きたい奴だって言いたいの?」

 

そんなことで私のことを分かった気にならないでよね、という好戦的な言い方だったが、その直後「正解かも」と言って笑う。

 

 

 

 

「だって、いつ心臓麻痺で死んじゃうかなんて分からないんだよ。最後まで大事に取っておいて、神様にやり残したことはあるかって天国で訊かれた時、あの海老フライが、なんて言いたくないじゃない」

 

ていうかなんで海老フライ、普通ショートケーキのイチゴとかでしょ、と携帯の地図を見ながら言う。

 

「ケーキのイチゴをわざわざどかして最後に食べる奴なんて、見たことがない。そんな奴は、ケーキじゃなくてイチゴを食べればいいんだ」

 

くだらないいつものやりとりをしている間に、おれたちは目当ての塔に辿り着いた。

 

 

 

 

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聖オレフ教会。

 

三井が「むかしむかし」と導入部分を読み上げる。

 

 

 

 

むかしむかし、一人の巨人が住んでおりました。

大工仕事が得意でみんなから慕われていましたが、誰も彼の名前を知りませんでした。

 

ある時、世界一高い塔をもつ教会をつくろうということになり、市民の要請をうけて、その巨人が立ち上がりました。

 

彼が町に要求した報酬は莫大なものでしたが、最後にこんな条件を付けました。

 

「教会が完成するまでに、もしもおれの名前が分かったら、1ペニーに負けてやる」

 

 

 

 

市民たちは力を合わせて彼の名前を探り、ついには彼の妻が歌う子守歌から巨人の名前を突き止めました。

 

あとは塔の上に十字架を架ければ完成というとき、市民がこう叫びました。

 

「オレフ、十字架が傾いてるぞ!」

 

 

 

 

名前を突き止められたことにショックを受けた巨人オレフは、バランスを崩して塔から落ち、石となってしまいました。

 

そんなオレフを哀れんだ市民たちは、この教会に彼の名前を冠することにしたのです。

 

 

 

 

「それ、今考えたオハナシですか?」

 

「違うよ、言い伝えとして実際に残ってる話だよ」

 

「おまえのShortFilmっぽい話だな」

 

僕もそう思いました、と広末くんが言う。

 

 

 

 

「なにより奥さんが可哀想ですね。自分のせいで夫の名前がバレてしまったあげく、夫を亡くして、ひとりで子どもを育てなくてはいけなくなってしまった」

 

「鋭い指摘だ」おれが笑うと、三井が「飽くまで言い伝えだからね」と言った。

 

 

 

 

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チケットもシンプルだが素敵だ。

 

塔の高さは123.7メートルに及ぶ。

 

これは旧市街で最も高い建物。

 

15世紀にはなんと159メートルもの高さがあり、当時は世界一高い塔だったともいわれている。

 

 

 

 

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中に入って見上げた塔の天井の様子。

 

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階段をのぼっていく。

 

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頂上までは距離があるので、電車のようなこんな折り畳み式のベンチもある。

 

途中、広末くんがカメラのモニターを確認しながら「違うな」と言って、大きな一眼レフではなく、携帯電話で撮り始めた場面があった。

 

「そんなにいいカメラ持ってるのに、iPhoneで撮っちゃうの」

 

素朴な疑問が口をつくと、彼は相変わらずその折り目正しい態度で年下のおれに説明してくれる。

 

 

 

 

「iPhoenのカメラって、プロのカメラマンが認めるほど実は性能がいいんですよ。この値段で、これだけのカメラを搭載できるのは、すごいんです」

 

だから、目で見たままを撮りたい時や、おもちゃみたいに撮りたい時、手軽なHDR撮影は携帯が適していることもあるらしい。

 

おれには何のことかまったく分からんが、その写真がこれ。

 

加工なし。

 

 

 

 

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さすがだ。

 

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最後の階段をのぼると

 

 

 

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13世紀からある塔。

幾度の落雷にも負けず、人々が守ってきた景色。

 

何かと高いところがあればのぼりたがる観光客だが、

この塔からの景色は見ておいてよかったと、心から思った。

 

 

 

 

 

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