旅先から更にショートトリップ、それも 一
日や半日で往復できる都市はありがたい 。
ほんの少しの移動で、まったくちがった
町や空気を味わえるトラカイ、オススメ!!
作家志望、24歳、イギリス3ヶ月目
「起きろ、こけし娘!」 容赦なくバンバンと肩を叩かれ、わたしは眠い目をこする。
6時50分。
ちょっとまだ早くないか、と体を起こすと、リュックを背負った準備万端の小学生のような砂吹がいる。
「100円の絶景を見に行こう」
砂吹に叩き起こされたわたしたちは、泊まった宿から徒歩10分、ヴィリニュスバスステーション(Vilnius Bus Station)に向かった。
目的はトラカイ(Trakai)の景色。
バスや電車で40分で行ける小さな町。
電車よりも本数が多いので、バスを選んだ。
およそ30分おきに来るようで、チケットは運転手からも買うことができる。
一人1.8ユーロ。
適当に来たバスに乗ったけれど、あらかじめ調べたい方はこちらから。
Vilnius Bus Station, Sodų g. 22, Vilnius 03211 リトアニア
しかし結果として、遅くとも7:20、7:50辺りのバスを強くオススメする。 その理由はのちほど。
「いま1ユーロいくらよ。1.8ユーロって、もうちょっと高くない?」
「何の話だ」
「あんたが言ったんでしょ、100円の絶景を見に行こうって」
「あれは、早起きは三文の得って話だろ」
砂吹は偉そうなことを言っているが、実は寂しがりやの、かまってちゃんだ。
20歳という若さもあるのかもしれないけど、知識をひけらかしてはチヤホヤされたい、
まあようするに面倒くさい奴だ。
確かに知識もあるけど。
「初日もいたよな、この不気味な人魚」
「本当だ。この町のアイコン的存在なのかな」
バスが出発してから、たったの40分で到着した。
現在8:30。 Trakai Island castleの方へと歩いて行く。
道中は、カラフルな家が並んでいて可愛い。
人口たった5000人の小さな町。その住人たちが住む家だ。
そして、景色が開けた瞬間、息を飲んだ。
少しだけひんやりする空気。 完全なる無音。 湖面に写る、城の影。
わたしたちはこんな時、示し合わせたように思い思いの方角へ散歩を始める。
携帯が通じないから、迷子になる可能性もあるのだけど、そんなことはもう関係なくて そして少し経ってから、みんなで一緒に歩く。
見終わった映画の感想を言い合うような感じで、言葉を交わす。
誰が言い出したわけでもないのに、そんな風に観光をする癖がついていて、わたしにはそれが嬉しかった。
広末くんはカメラを構え、砂吹は同じ場所に座り続けていた。
わたしは歩いたり、知らない花を見つけて、それについて通りがかった地元のおじいさんが話しかけてくれたりした。
橋を渡って戻ってくる頃には、人がかなり増えていて、観光客がたくさんいた。
先程の静けさはもうそこにはない。
というわけで、遅くとも7:50のバスで8:30に到着するのがおすすめ。
6時台のバスもあるので、その方が確実かもしれない。
わたしたちが行ったのは月曜だったためか、レストランも休みの場所があり、人も少なめだったのかもしれない。
朝ご飯も食べていなかったので、近場のレストランに入った。
外観は正直イマイチなのだが、中に入るとちゃんとしたレストラン。
ここで郷土料理であるキビナイを注文。
キビナイとは、カライメ族の伝統料理で、トラカイが最も有名。
スパイシーな、具沢山ミートパイ。
砂吹はワインを、わたしと広末くんはお水にした。
実はこれをとても楽しみにしていた。
ビーフ、ポーク、チキン、マトンチーズなどがある。
ビーフとマトンチーズを注文。
砂吹がナイフちょーだい、というと、これは家庭料理だから手で食べるのよ、と言われる。
ほらー、綺麗に切れないー、と広末くんがこぼしながら写真を撮ってくれる。
砂吹は待ちきれなくてすでに食べてる。
上がビーフ、下がマトンチーズ。
まず、このパイ生地が、今まで食べたことないくらいに美味しい。
この絶妙なふんわりとサクサク感の秘密は、生地にサワークリームを使っているそう。
中のお肉もジューシーで、これがおやつなどで食べられるリトアニア人がうらやましい。
たくさん食べたいのに、2つも食べると、満腹になってしまう。
お店はこちら。テラス席もある。
Trakų Dvarelis, Trakų g., Trakai 21104 リトアニア
湖のほとりにあるイタリアンなどは観光地価格だったけれど、ここは安かった。
キビナイ2つで4ユーロちょっと。
わたしたちは大満足で、来た道を腹ごなしにゆっくりと歩く。
「砂吹、今日の早起きの得は、100円どころではなかったよ」
「ですねー、早起きするもんですねー」
広末くんも空を仰ぎながら言う。
ありがとうと言うと、砂吹は照れくさそうに鼻をこすった。
次回、久しぶりの短編のオハナシ。