第20話「London, ブリクストンの美味しいお店と歩き方」

ギリスらしいものもいいけれど、た
まには変わったものが食べたい。そんな
人にオススメの町、ブリクストン。多国
籍料理が楽しめる。
あとは目が楽しい。    

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作家志望、24歳、ロンドン3ヶ月目  

 

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ヴィクトリア駅(Victria)からVictria Lineに乗って、わたしたちはランチを求めてブリクストン(Brixton)にやってきた。  

ここは、数年前までは治安が悪いとされていたエリアだが、今ではお洒落な町として有名になってきている。家賃なども急騰しているらしい。  

アメリカでいうブルックリンだ、と砂吹は言った。  

何でもアメリカで喩えると嫌われるよ、と言ったら、アメリカに好かれていれば恐いものはない、という謎の答えが返ってきた。        

 

 

「三井、腹ぺこだ。最初に目に入った店に入って、最初に見たメニューを食う」  

「お願いだからマックとかケンタッキーとか見ないでよね、せっかくここまで来たんだから」  

改札を出て右に曲がり、次の角をまたすぐ右に曲がると、不思議な多国籍なレストランが集まる通りに辿り着いた。        

砂吹はその通りに入ってすぐ右にあるレストランの看板を指さした。「ここでいい、ここにしよう」   本当に最初に見たレストランに決めた。  

 

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お店の名前は読めないが、どうやらコロンビア料理のお店らしい。  

メニューを薄目で見ている砂吹。  

「それルール違反でしょ。ちゃんと最初に見たものを注文しなよ」  

「まだ何も見てない。いま最初に見るものを決めている」  

 

 

男らしくない奴だ。        

わたしは魚料理を注文した。  

平たい揚げ物はバナナのようだ。パリパリして、バナナチップスのようで美味しい。  

ライスはバターで炒めてあり、甘くて、好きな味だ。   砂吹が「なんだこの泥水は」と言ったレモネードも、ちゃんと美味しい。

 

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それとなく、広末さんの第一印象について訊いてみようと思った。  

「ねえ、砂吹はさ、初めて人と会う時に、第一印象みたいの、気にしてる?」  

「考えたこともない」目の前のステーキから目を離すこともなく言った。  

as soon as「〜するや否や」というフレーズは、どういうシチュエーションで使うのかとバカにして覚えた英語だったが、砂吹は、運ばれてきた料理の皿を店員が机に置くや否や、ステーキに齧り付いた。というわけで、写真がない。        

 

 

「でも、第一印象って大事じゃない。もし一目惚れした人と話せるチャンスがあったら、良く思われたいでしょ」  

「その際、できることなんて二つに一つだ。

一、身の丈に合わないキャラクターを演じる。この場合、もしうまくいって結婚することになったら、一生それを演じ続けるんだぞ。

二、自然体で接する。パズルのピースがぴったり合うように、良い人が見つかるかもしれない。お互い、楽だろうな」  

 

 

「そう言われると、後者の方が圧倒的に良い気がしてくるけど」  

「おれはそうは思わない」        

砂吹はいつも、会話をどこへ持って行きたいのか分からない話し方をする。  

ようするに、めんどくさい。同調するとこちらがバカを見る。  

 

 

「今回の場合は一目惚れした相手だろ。何としても付き合いたい。だったらおれは、どんな役を演じてでも一緒にいたい」  

「どんな役でもって、たとえば?」        

「求められるもの全部だよ。誠実な人、紳士的、おもしろい人、なんでもだ。たとえば、おれは犬や猫は好きでもないし嫌いでもない。面倒だから飼ったことはない。だが好きになった人が動物が大好きで、実家が動物園みたいだったとする。おれはその好きな人のためだったら、動物くらい好きになれる」  

「それってどうなの、相手からしたら。動物が好きなんて、これは運命だ、と思っていたものが、人工的に作られたものだと気が付いたら」  

 

 

「甘っちょろいこと言ってるから蒙古斑(もうこはん)が消えないんだ。もちろん、わざわざそれを本人に伝えるような事はしない。運命なんてものはない。だから作るんだ。おれは本当に一目惚れしたら、食パンくわえて街角で待ち伏せて、自らぶつかって行くくらいのことは平気でする」  

「蒙古斑なんて残ってないから!」        

話を聞きながら、広末さんのスカートの魔法のことを思い出した。  

ひとつだけ願いが叶うとしたら、どんな魔法を使えるようになりたいか。  

 

 

他人のスカートが勝手にめくれる魔法。  

正直、一種の異常性のように感じてしまったが、砂吹はそれを一途な恋だと言っているわけだ。        

 

 

「世の中のサラリーマンの多くが、女房に頭が上がらない、みたいに言われて笑われている。果たして本当にそうなのか。みんな、演じているだけなんじゃないか。頭が上がらない亭主を。それはなぜか。その方が万事、うまくゆくことを知っているからだ」

砂吹はレモネードを飲み干した。「おまえの幼稚なアニメ脳を改善するために、どこでもドアの仕組みを教えてやる。これを元に、来週短編を書いてみろ」  

どこでもドア?

おかしなことを言ったと思ったら、店員を呼んで勘定を済ませた。まだ食べてるのに。        

 

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食後の散歩として散策してみたが、目が楽しい街だ。  

名誉のために言わせてもらうけど、いかにもフリー素材でありそうなトップの画像も含め、全部わたしが撮ったもの。  

カメラマンの広末さんが加わったら、もう少しマシになるだろう。

それまでもう少しお待ちください。     

 

 

次回、短編書き下ろし。

Short Film 2「どこでもドアと、だれでもドア」      

 

 

 
 
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