STORY 10 「手に入れるとなくす夢」


    

#10 『手に入れるとなくす夢』










クリスマスよりは、今日だろうな。


この季節に、
小学生、それも、低学年くらいの男の子を見ては
思い出すことがある。










A Boy Story 10
「手に入れるとなくす夢」










男、三人兄弟のいちばん上に生まれた僕は
夢から覚めたのもいちばん先だった。



その夢は誰かに奪われたわけではなく、
また、誰かのを奪った覚えもない。
そう、たいていは傍観者だ。
雰囲気で、ことの真相を知る。



クラスでの中には、夢の強奪をする奴がいる。
だいたいは、お兄ちゃんかお姉ちゃんのいる奴だ。
「な、おまえもそう思うだろう?」
共犯の誘い。僕は肯定もしなければ、否定もしない。










次に夢から覚めたのは、真ん中の弟だった。
順番だ。


弟が、こっそりと僕に訊く。


「ねぇ、兄ちゃん。
サンタってほんとはいないの?」


僕は言う。
「いるから朝プレゼントがあるんだろ」


「でもさ、おれ今日学校で言われたんだよね」










こいつは、奪われた側の人間だ。










僕は言った。
「まあ仮にそうだとしても、アイツには言っちゃダメだぞ?」


「がってん!」










アイツとは、他ならぬ、いちばん下の弟の事だ。
共有するなら、犯罪よりも秘密のがいい。










その次の次のクリスマスイヴ、
僕は父さんとケンカをした。




父さんは
「おまえなんかにプレゼントはやらん」と言った。


リビングには、テレビアニメに夢中とはいえ、
いちばん下の弟もいた。


「別に父さんからもらうわけじゃない!」


僕は、しまったと思った。
嫌な予感がした。










お酒を飲んでいる父さんが、万が一にも、
「俺があげてるんだよ!」と言い出してしまったら……



僕と真ん中の弟は、
いちばん下の弟の手をひったくるように連れ出し
三段ベッドに帰還した。













いちばん下の弟は、まだテレビが途中だったのにと文句を言ったが
疲れていたのか、そのまま眠ってしまった。










僕と真ん中の弟は小声で話し合った。

「どうしよう、本当にもらえなかったら」

「別にいいじゃん、もらえなくても」

「そうじゃない。もらえないとしたら、三人全員かもしれない。そうなったら……」

「サンタはいない、って事になっちゃうかもね」













僕と真ん中の弟は、年の離れた末っ子の夢を壊したくなかった。
かといって、今さら父さんに謝りに行くのも癪だった。













「仕方ない、買いに行くか」













ブタさんの貯金箱はまだ軽く、十分に肥えてはいなかった。


「いやいや、待ってくださいよ。まだまだいけますよ、おれ」


という彼に向かって


「すまん」


とハンマーを振り下ろした。










真ん中の弟は見張り役。
僕は小銭をじゃらじゃらと背中にせおい、



二階の寝室から、一世一代の脱出劇を試みる。
目指すはとなり町のおもちゃ屋。



ベランダの柵に足をかける。
下には真っ暗な庭が黒く広がっている。



振り返ると、真ん中の弟が心配そうに見つめている。
もう後戻りはできない。













ベランダの柵を越え、屋根を伝って降り、倉庫の上に乗る。
そこから細い平均台のような塀まで足をかけ、一気に地面へと飛び降りた。













自転車で坂を勢いよく滑り下りた。
寒さは苦手だったが、なぜだか今日は気にならない。



前開きのコートがマントのように後ろになびき、
ヒーローにでもなったかのような気分だった。



誰かのために頑張る時は
自分のための時と
少しだけワクワクの種類がちがった。













無事に目的のおもちゃを購入した僕の大脱走は
ものの見事に両親に見つかり



ミニサンタはプレゼントをひっさげて
玄関で靴を脱いで家に入ることになった。



僕がこっぴどく叱られている間、
真ん中の弟は、目でごめんと微笑った。















いちばん下の弟は
最後まで起きることなく朝までスヤスヤと眠り
翌朝、プレゼントを2コもらったと無邪気に喜んでいた。



ミニ四駆を嬉しそうに走らせる姿を見るのが
僕らはどうしようもなく待ち遠しかった。
しかし彼は、なかなか箱を開けようとはしなかった。













まだ開けないのか? という僕らを無視して
25日のクリスマスの間中、
箱を少し遠くに置いては
寝転び頬杖付きながら、足をパタパタさせて見つめいてた。













いちばん下の弟がやっとミニ四駆を走らせたのは
26日の夜だった。


彼なりに、余韻を楽しんでいたのかもしれない。










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26日。
街の人並みを見て、僕は思う。
昨日よりは、今日だろうな。




おもちゃ、マフラー、ペアリング……




もう少しだけ箱の中にしまっておきたい。
急に新しいものを身に付けていたら、みんなに何か言われそう。
理由はどうあれ。




今日のこの街は、
誰かのあげたプレゼントで溢れている。










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Norman Rockwell
The Discovery 1956













小さな男の子の背中を見送る。




いつかは覚める夢だけど
どうか、もう少しだけ。













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