STORY 6 「目を背けないという遊び」


    

#6 『目を背けないという遊び』









小学校の同窓会のお知らせが届いていた。



あの頃の記憶は半分以上がおぼろげだけれど、
参加してみようかな、という気になったのは



とあるクラスメートが結婚する、ということと
その相手が、同じクラスにいるらしい、



という何とも気になる噂を耳にしたからだった。














A Girl Story 6
「目を背けないという遊び」














「ほら、窓の外ばかり見てないで黒板を見なさい!」



先生がそうやってよく注意をするのは決まって
“やんちゃ”を絵に描いたような子だった。



宿題は忘れる、授業中うるさい、ケンカもする。



でも、返事は人一倍元気が良い。足が速い。遅刻はするが休まない。














当たり前のことだが、先生だって、聖者や仏様じゃないから
分け隔てなく生徒を愛そうとしたってそれは難しい話で、



置物のように、毎日当たり前にそこにあって
その置物が、文句を付けるほどの出来損ないでもないのだが
特に褒める場所も見つからないような代物だったとしたなら、



目を向ける回数も少なくなるというもの。













そんなものよりも、
花瓶のくせに自己主張が強く、
先生、花を生けてくれよ、と愛らしい笑顔を見せ、
地震でもないのに、机からしょっちゅう落っこちそうになってる花瓶を見れば、
目が離せないのも無理はない。



そんな花瓶に、手間ひまかけて生けた花が、
時々綺麗な花を咲かせれば、喜びもひとしおだろう 。



宿題はたまにやってくるに限る。














当たり前に毎日宿題を提出し、
目立つ長所も欠陥もなく、特筆すべきことのない骨董品のような僕は



外の風景を眺めていても、叱られたことは一度もなかった。














なんともなしに見てしまうのは、いつだって廊下側ではなく窓際だった。



別に窓の外に何があるというわけでもないのだけれど、
それでも、花瓶だとか、金魚の水槽とか、可愛い女の子だとか、
華やかなものはいつも窓際にあった。



だから、喫茶店でも飛行機の座席でも、
窓際と言う場所はいつだって、上司、先輩、女の子に譲ってきた。



知っている。僕に窓際は似合わない。














彼女は、当時女子の間だけでひっそりと流行っていた遊びを教えてくれた。



君には特別に教えてあげるー、と言ってくれたその窓際の女の子は
僕を男と認識していなかったという可能性こそ否めないが



それでも、
その女の子の言葉の通り、特別、と受け取って喜んでいた。














その遊びとは、
授業中、好きな男の子の背中をじっと見つめ続ける、というものだった。



自分の視線に気付いて、その男の子が振り向くかどうか。
振り向いたら嬉しくて、両思いだ、とはしゃぎ、
友達ときゃっきゃする、というだけの遊び。
大胆だなあ、と子供心に思ったのを覚えている。



また、その遊びは勝ち負けがなかった。
振り返れば勝ち、気付かれなかったら負け、ではない。
そのような点も、今となっては微笑ましく思う。



勝ち負けが重要でなかったその頃が
それこそ花のように一番きれいだったのかもしれない。
勝敗がはっきりしないと満足できない、きたないものになってしまった気さえする。














それならば僕も、と
その遊びを教えてくれた窓際の女の子を必死に見つめ続けてはみたが
彼女と目が合うことはもちろんなくて



その彼女はといえば、
これまた窓際に座る、足の速い、太陽みたいな男の子を
いつだって頑張って見つめていた。














いつしか、僕も窓際に座ってみたいな、と思うようになった。
窓際に座って、あの眩しい陽の光を浴びれば、
僕だってちょっとは輝けるんじゃないか
という微かな希望を抱いていた。



しかし、クラス替えまでに、僕が窓際に座れることはなかった。
席は毎回くじ引きで決められているはずなのに、
くじ引きの神様は、誰が華やかかを、よく理解しているようだった。














しかし、その頃の僕はまだ、
すきな子を見つめるくらいの勇気はあったんだ。














「あのね、私は目を見て話してくれる人が好きなの。
 でも、好きな人と目が合うと恥ずかしいの」



窓際の彼女は、僕の目を見てそう言った。



僕は、矛盾してない? と聞いたけれど、
彼女は、にりつはいはんなの、と言った。



今思えば、二律背反なんて言葉をよく知っていたな、と感心するが
二律背反の意味を理解した今でも、
あれは単なる矛盾だったのではないか、と思う。



もしくは、遠回しに、あなたには興味がないの、と言われていたのかもしれないが
そんな末恐ろしいことは、なるべく考えないでおきたい。














女心は難しいのだな、と思うが
まもなくその矛盾をも理解することとなる。



《目が合うのもこわいけど、合わなければ、それはそれで悲しい》



さらに大人になって気が付いたことといえば、
目というものは、背ければ背ける度に、そういう癖がつく、ということだった。














今さらあの子に会ったところで、僕は何の話をするんだろう。
もし、あの頃好きでした、なんて間抜けなことを伝えたとして
彼女は一体なんて言うんだろう。



僕はそっと目を閉じて、彼女の反応を想像してみる。




















「私も好きだったよ。」








「私は常に嘘を言うよ。」




















僕は急いで目を開ける。





もういいです、そういうの。














帰省という名の一人旅のときくらい、と、
僕は電車が運ぶ景色を堪能するべく、窓際に座った。



どんなことが待っているのだろう。
素直に、おめでとうとか、月並みなお祝いが言えるだろうか。



窓の外を一瞥し、
これから起きる何らかの物語を想像しながら、
もう一度ゆっくりと目をつぶった。














IMG_1803.JPG














せめて、目を見て話してみるか。














model    ROBOT NOZOMI
hair & make hiro
story     Old Laugh Maker











※二律背反 
正命題、反命題のどちらにも証明できる矛盾、パラドックスのこと。

「私は常に嘘を言う。」

この言葉が真ならば、私は嘘つきである、という本当のことを言っている。

この発言が偽ならば、私は嘘つきではないのだから、「私は嘘をつく」という嘘を言っていることになる。













STORY
#7

『必要な出来事』

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