STORY 4 「転ばぬ先の父」


    

#4 『転ばぬ先の父』









すこし厳しく言い過ぎたかもしれん……

帰ってきた娘は、目元を真っ赤にしていた。

花火に着ていくための、浴衣が欲しいとねだられたのだ。









A Girl Story 4
「転ばぬ先の父」









子供の成長というものには、つくづく驚かされる。


この前まで一緒に風呂に入っていたような娘が、
最近では化粧をしているじゃないか。


二年間の単身赴任から帰ってきて
久々に見る我が娘は
私に言わせれば宇宙人だ。




夏休みになったとたん

やれ化粧だ
やれ脱色だと

何回言い合いをしただろうか。


そして、極めつけは、
彼氏と花火に行くので浴衣を買ってくれときた。





私は目を細めるようにして、
そう遠くないはずの過去を思い出そうとしてみる。

楽しい思い出だった。

いったい、何がいけなかったのか。

少し甘やかし過ぎてしまったのだろうか。




パパと結婚する、ときかなかった可愛い娘だったが
いずれは反抗期を迎え、

風呂の湯を抜かれるだとか、
一緒に洗濯しないでと言われるだとか、

いつかはそんな日が来るのだろうなあ、という想像はしていた。

もちろん、自分が傷つかないためでもある。

女の子とは、そういうもので、
そういう時期もあるのだ、仕方がない、と。




娘は小学生になった。



入学するときに
まだ早いんじゃないかという私に対し、
いつでも連絡が取れた方が安心だという妻に言いくるめられ
携帯電話を持たせた。


私が携帯を持ったのは高校の時だったぞ、と口をすぼめると


私達の親の世代はポケベルさえなかったの。
時代ってそういうものなのよ、と妻は軽くあしらった。




このとき私は、いやな予感がした。




中学生の頃、私達の周りにいた、一足早くPHSを持っていた人たちは
みんな不良かその類いのグループだったということを、ふと思い出した。


娘は不良になってしまうんじゃないだろうか。




娘が中学生になり
私は門限をつけた。

そして、帰りが何時になるかを、必ず家に電話するように言って聞かせた。

今時そんなの、と何度も娘に言われた。

しかし私は、約束を守らせた。

そして娘は一層反発するようになった。


先日、化粧をして帰ってきた娘を
私は怒鳴り散らした。

どう考えても
化粧など早すぎだ!






しかし、どうだろう。
今、帰ってきた娘の泣き顔を見て

ふと、私は
途中でどこか間違ってしまったのかもしれない

そう思った。




門限、連絡、化粧を禁ずることと

花火の日に浴衣を着ていくことは

まったく別の問題なのでは……




私はてっきり
明るくした髪を束ね
目元を真っ黒にした浴衣姿の集団の中で
酒を片手に娘が騒いでいるところを想像して


浴衣など買わん! と思わず一蹴したのだが。



このまま浴衣を着れずに
みなが楽しそうに夜空を見上げる中に一人
私服姿で見る花火は
娘には一体どう写るのだろうか。



彼氏など言語道断だと思ってきたが、これが、時代というやつなのだろうか。



家を飛び出して
帰ってくるまで
目をあんなに真っ赤にするほど
悲しい思いをさせてしまったのだろうか。








思い出をさらに呼び起こすように目を瞑り

そして今、はっきりと分かったことがあった。

私だって、同じような気持ちを味わったことを。







高校生の頃、初めて彼女ができたとき

厳格な父親とケンカして家出をした。

こんな父親には
絶対にならんと。



私は今、きっと、そんな父親なのだろう。




謝るか、今すぐに。











私は娘の部屋へ続く階段を上がり

ドアをノックしようとしたそのときだった。




廊下に置いてあるクズカゴに
真っ黒なコットンがたくさん捨てられていた。



一緒にマスカラの箱も捨てられていた。




帰り道、

化粧を急いで取ろうとしたにもかかわらず
なかなか取れずに強引に目元を拭きとる娘の姿が容易に浮かんだ。


アイツめ、目が真っ赤になってたのは、
泣いてたわけじゃなかったのか。








私は勢い良くドアを開け、
いつも通り、部屋に怒鳴りこみに入った。




ノックしてよって言ってんでしょ、という声が降ってくる。













写真.JPG








『ありがと、お父さん』










model     Sayaka Ito
hair&make  Hiroaki Iwata
story     Old Laugh Maker













STORY
#5

『うしろ髪』

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