美容とエンターテイメントが同居する「物語のあるヘアショー」とは

ニューヨーク、ロンドンで活躍する岩田さんの最初の一言は、
「一流のヘアメイクアーティストになるのは夢ではない」というもの。
独自の理論で使い分ける、本音の夢と建前の夢。難病と上手く付き
合いながら、自分と、時代に合ったハイブリッドな働き方とは。

 

ヘアショーって、つまらないんだな

美容学生の頃は、時間があればヘアショーに行ってました。

そこでわかったのは、「ヘアショーって退屈だ」ということ。

どんなに業界トップクラスの人が登壇しても、髪を作ってる時間は無駄に長く、Before & After はたいした変化もない。感動も正直そこまで。

まだ学生で技術が理解できなかったせいもあると思いますが、ショーの構成は人を楽しませようという工夫が皆無でした。

 

 

「だらだらしてるなー、長いなー」ってずっと思ってました。映画を見るよりも、よっぽど高いチケット代を出しているのに。

その時〝ヘアショーはエンタメになり得ないのか〟という疑問がわきました。

ヘアショーが、映画や舞台、漫画やお笑いなどと肩を並べることは本当にできないのだろうか。

自分なりに楽しいヘアショーは何かと考え、試行錯誤をするようになったのが、今の「物語のあるヘアショー」のはじまりでした。

 

 

映画一本分くらいの満足度と余韻を、ヘアショーでつくるには

女性だけでなく、美容に興味のない男性や子ども、お年寄りまでもが楽しめるヘアショーにするにはどうしたらいいか。

ヘアを作ってる時間が長く退屈なら、そこでお話を流そう。

 

 

まずステージには、泣いている女の子。

あやつり人形が「どうしたの?」と声をかける。

スクリーンには女の子の バックグラウンド、コンプレックスにまつわる物語が、音楽とともに流れる。

あやつり人形ははさみを使い、髪やお化粧で女の子を劇的に変える。

 

 

最後に手鏡を渡すと、自分の変化に驚く女の子。

戸惑いながらも、一種の気づきを得た彼女は、新たな一歩を踏み出す。

 

 

こうして「物語のあるヘアショー」の原型が生まれました。

 

 

はじめから海外進出を意識してたわけじゃないですが、当初からプロジェクターに映し出される物語には、英語字幕をつけていました。

あやつり人形はパントマイムによる演出。

台詞のないショーなので、物語さえ理解できれば外国の方でも楽しめると思ったからです。

 

 

そのうち、着物や日本の文化を世界に広めるイベントなどにも呼ばれるようになり、そこには外国人のお客さんも多数来ていました。

終演後、「Amazing」みたいな声をかけてもらえて、「ああ、英語字幕に自信はなかったけど、ちゃんと伝わったんだな」と嬉しい気持ちになったことを覚えています。

着物に興味のある外国人が多いことも気づきでした。ショーを通して、イギリスの人々にもっと日本の伝統に触れてもらえたら嬉しいです。

 

 

クローン病ってなに? 羊のクローン?

僕が患っているクローン病とは、羊のクローンではなく、クローンさんが発見したものです。

口から肛門までのすべての消化管に、原因不明の潰瘍ができてしまう病気。

現代医学では治すことはできず、国の難病に指定されています。

日本にはまだ症例が少なく、クローン病患者の半分以上が働けない状態にあると言われています。

 

 

診断を受け、治ることはないと聞いた時。

そこにあったのは、驚きと絶望と、ちょっとの安堵でした。

なぜなら、最初に入ったサロンは、尋常ではない胃痛と腹痛に見舞われてやめてしまったからです。

もちろん病院もサードオピニオンまで求めましたが、どの医者も「ああ美容師さんはよくあることだから」の一言でした。

 

 

根性が足りないと周りに言われ、腹痛くらい気合いでどうにかなると自分でさえも思っていて。

それでも厳しい環境についていけなかった負け犬、と辞めた後も自分を責め続けていた。

なので、不治の病と聞いても、どこかほっとしたところがありました。

なんだ、やっぱあれは普通じゃなかったんだ、と。

 

 

クローン病だとわかったことで、サロンで働くことをきっぱり諦め、自分のペースでやっていこうと思いました。

そしてサロン時代から撮影に同行させてもらって興味がわいていたこともあり、ヘアメイクアーティストになり、雑誌などの仕事をしました。

「頑張れないなりにやる」というのが当面の目標になりました。

これは実は、がむしゃらに頑張るよりもよっぽどコツがいりました。

 

 

夢には本音と建前があっていい

寝ないで働けばそれなりに一種の達成感を味わえ、周りからはアイツは頑張ってる、という評価がもらえます。

これが日本の悪しき慣習です。

そこで僕は、夢を使い分けることにしました。

熱い人の前では建前の夢を、気心知れた人には本音の夢を。

 

 

建前の夢が嘘だというわけではもちろんありません。

ただ本当は、そこまで大それた夢はなく、もっとシンプルに。

僕がどれだけ生きるかは分かりませんが、自分に合った環境で、好きな人たちと過ごす。

それが本音の夢です。

 

 

ロンドンは仕事をするにも生活をするにも、自分に適した場所だと感じました。

クローン病で海外で2年過ごすって、文字通り奇跡的で、よく驚かれます。

それくらいロンドンは僕に合っていたんだと思います。

またヨーロッパにはクローン病患者が日本の10倍以上いるので、またちがう治療法も見つかるかもしれません。

 

 

今日の話が本音かどうかですか?

前半は建前、後半は本音です。プロフィールは建前です。

でも、大事なことなので何度も言いますけど、建前の夢も、決して嘘ではありません。

両方、必ず実現させます。

 

 

飲み会の席で人に話すための赤い炎の夢と、粛々とこなす青い炎のような夢。

炎は青い方が温度が高いらしいです。

夢が2つあったっていいじゃないですか。

もっとあったっていいくらいです。

 

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